実践例 やまびこの教育内容と指導について ― その1 ―

2学期の子どもの育ち
年中ちあきの作品づくり

指導者 鈴木香名
平成21年度生 年中

2学期がスタートした際、一輪車を再開させた子ども達が数人みられた。その中にも、ちあきの姿はあった。なつみ、みづき、ゆうな、わかな、ねね、達はその後も、黙々と続けて一人づつ自力で乗りこなせるようになっていった。しかもそれまで練習していたサッカーゴールやトンネル付近のなだらかな坂等の場所ではなく周りにつかまる物が何もないような平坦な場所でも行うようになっていた。
その間ちあきは好きな氷鬼に参加したり、他の遊びを行ったり、縄跳び、崖登り・・・と興味を持った事にはすぐに飛びついて楽しんでいた。しかしそれぞれの遊びもとぎれとぎれで、中途半端になってしまう。また朝の本の活動の時間にもあくびをすることが多く、本来の力が出せない姿が気になっていた。

11月に入りクラスの中で次つぎと補助無自転車に乗れるようになる仲間が出てきたり、 目標にしている事を継続している姿がちあきの目にも入って来るようになる。いつもするりと抜けて、楽しむことばかりをしている事が本人の中でも気がかりだったのだろう。
再び一輪車に乗り始めるようになった。先の仲間たちと自分は同じと思っていたようでなんの疑念も持たずに、なつみ達のいる平坦な場所で一輪車を乗ろうとした。もちろん自力で一輪車に乗る事も難しく「せんせい持ってて・・」と私の手にしがみついている。
何度となく繰り返しペダルを踏もうとするが足も巧く進められなかった。しばらく繰り返したところで「ちあきちゃん、なんで皆のようにペダルがふめないんだろうね?」と
問いかけてみた。「ずっと氷鬼とかして私は一輪車乗ってなかったから・・・皆はその間も一輪車の練習してたからちゃんと乗れるようになったんだと思う」少しがっかりしたように呟くちあき。「きっとねこれからまたちあきちゃんが毎日少しづつ続けていったら 皆のように乗れるようになると思うよ。」黙って頷くちあき。「ちあきちゃんが続けて練習するならせんせい一緒に手を貸しながら応援していくから、その時は言ってね」再び黙って頷くちあき。

翌日になってちあきの言葉を待ったがやはり一輪車には目もくれずまた氷鬼に参加していった。これまでも何度となく「崖登りは?」「縄跳びは?」と声をかけてきたがその言葉はちあきの心にはなかなか届かなかった。どうしたらちあきの本来持っている、意欲や力が発揮できるのだろう・・と考える日々が続く。
12月にツリー作りやサンタさんへの手紙を書くなどの活動が続いた。インフルエンザに遅くにかかってしまい他の子ども達よりも一足遅れての制作に取り掛かったちあき。
一緒にすごしているうちに1学期から、独自の感性で作品を作っていた事を思い出した。
そこでちあきに「ちあきちゃんしか作れないような素敵な絵を描いてみない?」と提案してみた。すると直ぐに「やってみたい」との返事が。そこで早速二人で最後まで
しっかり作品を作っていこうと約束する。

12月11日(金)自分のノートにカーボーイ風のさんた?が馬に乗り荷物を運んで行
く絵を鉛筆でさらさら書き始める。カーボーイの絵の周りにはローマ字での囲みがあり、その周りにもハートや模様が散りばめられている。

15日(火)3連休明けだったがちあきは本の活動が終わると自分からノートを出して
きて続きを行う準備を始める。細かい絵だったので日ごろから子ども達が自由に使える36色の色鉛筆の他にクーピーも用意する。ちあきは色々考えてから「やっぱりこの色鉛筆にする」と全部の色を広げて続きを始める。他の子ども達とのやりとりをしてちあきの元に戻ってくると案の定ささっと色を塗って簡単に済まそうとする。そこで「ちあきちゃん少し先生にもハート描かせて?」と願い出る。一緒に出来ると思ったのだろう「いいよ!」と嬉しそうに話す。一つのハートを丁寧にゆっくり塗って「これどう?」と見せる。すると「きれいだね!」「ちあきちゃんみたいにささーっと早く描いていくのとどっちがかっこいい?」と話すと照れた表情を浮かべながら「やっぱり香名先生みたいに丁寧に描いた方がいいと思う」「そう。それじゃ急がないでしっかり描いていこうね」その後ちあきは少しづつ色を選びながらも丁寧さを自分なりに考えて続けていった。時々「どうかな?」と感想を求めてきた。「始めにさーって描いた時も良かったけど、丁寧に考えている今の方がちあきちゃんの絵がよけい素敵になっていると思うよ」と答えた。

16日(水)集中すると少し疲れるようでちあきの中で区切りの良い所まで制作の続きを行う。1学期には額縁まで作っての作品を仕上げていたので今回はどうするか尋ねると「赤い額縁がいいな・」と希望をあげてきた。
17日(木)額縁に合わせてリボンを数種類用意。その中からちあきが好きな物を選んでいく。額縁には上部に星空をその他にはクリスマスのツリー等を描いていく。
ちあきの豊かな発想に改めて驚かされる。
4日間かけてちあきの作品は出来あがった。満足したように「やったー!!」と声をあげて二人で喜び合う。その直後ちあきは縄跳びの記録の続きをするとノートを取り出して飛び始めた。
ちあきと私のやりとりをみていたのかゆうなやわかな、みふゆ達がオリジナルの細かく丁寧な作品作りを始める。他の子ども達の行動にも思いがけない刺激を与えていたようだ。
この間のちあきの姿を振り返ってみると本を読んでいる時に以前のようなあくびをする 姿もなくなり、話を真剣に聞く姿がみられるようになった。このことからこれまでの彼女と私の関わりにちあきにとって満足できる十分なものがなかったのだと反省させられる。

信頼できる大人に自分をしっかり見守ってもらえるという安心感があれば、次に向かっていく力はもっともっと発揮する事ができるのかもしれない。
ちあきも、楽しい事ばかりを続けていくのではなく、少し面倒だったり、時間のかかる事を行う事で生まれる充実感にきづけるきっかけになったのではないだろうか。
もともと能力があり、何に対しても積極的に行動できるちあき。3学期には一輪車でもなんでも、出来る限りの時間の中で再びじっくり関わって達成感が味わえるようにしていきたい。

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